
鰆 の 炒 り 焼 き
「日生千軒漁師町」としてうたわれた日生には、魚どころならではの郷土色豊かな魚料理が伝わっています。
春になると、紀伊水道や豊後水道からタイやサワラ、イカ、ボラが魚鱗をかがやかせて瀬戸内海に押し寄せてきました。これは、卵を産むための産卵回遊ですが、八十八夜のころにはこの群がまるで島のように見えたというようなことから「魚島(うおじま)」と呼ばれました。この地方では「魚島」をなまって「いよじま」と言っております。
瀬戸の海や 浪もろともにくろぐろと い群れてくだる春の鰆は
---若山牧水---
八十八夜から四十日間を「魚島どき」と呼んでおり、一年中で最も魚が豊富で、おいしい季節です。特に、マダイとサワラは魚島を代表する魚であり、その時期が近づくと漁師町はがぜん活気づいてきます。
豊漁の際、船内ではなかなか、ゆっくり食事の用意をしている時間もありません。とれたサワラをさばき、醤油を入れた鍋にコンロをかけ、サワラの煮えるのももどかしく口に入れたところ、これが大変おいしかったので、船では半煮えの状態で食べるようになりました。
この漁船料理が、やがてこの地方の家庭料理となり、春のサワラ漁の季節になると「いよじませんかーなー」ということになります。これは豊漁を祝って一杯やろうという意味で親類や友人が集まって、炒り焼き鍋を囲みます。 地元では、ぜいたくな食べ物でなく「庶民の味」として、また、酒、ご飯のおかずとして家庭でも作られております。この炒り焼きは、刺身と魚すきの中間とでもいえるものです。
サワラを三枚におろし、背身を皮つきのまま刺身より厚めに切ります。鉄鍋に醤油と砂糖をほぼ二対一の割合で入れ、それに酒か味醂を少量加えて煮立てます。グツグツ泡だったころ、サワラを箸に挟んで、鍋の中を一周させる程度が食べ頃といわれています。
どの程度炒り焼くかは、その人の好みによりますが、時間をかけると魚すきのようになり、すぐ上げると、かつおのたたきと同じような状態になります。炒り焼きは、この半煮えを食べるのが普通で、表面はあたたかく、中身はひんやりとして口の中でとろけるような感じがなんともいえません。刺身より生臭さがなくたくさん食べられます。
このほかに季節のエンドウや、ゴボウ、タマネギなどの野菜類を用意し、魚を引き上げたあとの煮汁で煮て食べるのも結構風味があります。
一般的に魚は、頭に近い部分がおいしいとされていますが、サワラは逆に尾の方がおいしいといいます。
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