全水卸記者:川島 佐登子 さん 平成10年12月7日訪問取材
市場ぶらり訪問記(3)

市場ぶらり訪問記(3)

 ●朝6時半には終了 早朝5時半に岡山駅前から市場に向かう。途中、タクシーの運転手が[あそこが以前に市場があった所で、今は病院になっています』と教えてくれた。「市場案内」には岡山駅から車で30分となっているが、道路はすいていて20分ほどで到着した。

 ところが到着してびつくり。12月初句の岡山はまだ夜が明けていないにもかかわらず、水産棟は卸売場にも仲卸売場にも買出しの人はすでにまばらである。販売を終えて伝票整理や片づけの段階に入つている。

「一番ゼリは4時半からマグロが始まります。みんな交通渋滞にならないうちに店に帰るので、7時前には潮を引くようにいなくなってしまうんです」。

売場を案内しながら、岡山中央魚市株式会社の同前廣之専務が「人がいない訳』を説明する。瀬戸内海の新鮮な魚介類を好む岡山県人の魚文化を物語るように、ヒラ、クロシタ、シャコ、カキ等々が売場に並ぶ……。

水産物は全県一流通圏岡山県には、今回訪れた岡山市中央卸売市場のほか、地方卸売市場と、その他の卸売市場が82ある。このうち、水産物の市場は35。青果物は岡山、津山、倉敷とほぼ三つの流通圏に区分されるのに対し、水産物と花きについては、全県一流通圈になつている。

岡山市中央卸売市場は1952年、市街地に近い青江地区で青果部と塩干部の取扱業務を開始した。だが、市場が狭陰過密化したために、海岸に近い現在地の市場1〜2丁目に全面移転し、1983年水産、青果、花きを扱う総合市場としてオープンした。卸売業者はいずれも二社ずつ入っている。供給対象人口は水産物が最も多く、2000年目標で92万2000人となっている。岡山市の人口は61万人、岡山県全域で195万人なので、ほぼ県の半分の人口を一市場でまかなう計算になる。

 同市場の水産物部卸売業者は株式会社 岡山県水と岡山中央魚市株式会社の2社。

 市場の部類別取扱高(1997年)をみると、水産物部は4万8507tで465億221万円、この内訳は数量で鮮魚59%、冷凍21%、加工20%、金額で鮮魚61%、冷凍23%、加工16%となっている。

 鮮魚、加工品が数量ではやや減少傾向にあるのに対し、冷凍水産物は数量、金額ともに前年比113%と伸びている。

 金額では1992〜93年に510億円台でピークに達し、以後やや減少ぎみではあるが、全国的に苦戦している市場が多いなかでは健闘しているといえる。

「今が景気の底だろう。活路を開くために、加工品の取扱いを強化していきたい」と土屋和弘社長はこれからに期待をかけている。

瀬戸内の幸が豊富 岡山県は瀬戸内海に近く、海の幸が豊富である。したがって、鮮魚の出荷地別入荷量(1997年)は岡山県が最も多く17%(むきカキ、タコ、養殖ハマチなど)、以下福岡(サワラ、サゴシ、サバ)、愛媛(養殖マタイ、マアジ、養殖ブり)、山口(アサリ、ヤリイカ、サワラ)、香川(養殖ハマチ、養殖マタイ、マイワシ)と続く。魚が産卵のために瀬戸内海に入ってくるケースも多く、上位9位までは瀬戸内海、九州の産地が占めている。

 取扱数量でみると、1ブリ類、2マダイ、3サワラ、4サバ、5マアジ、6アサリ、7スルメイカ、8マイワシ、9サケ、10シタヒラメの順になっている。全国の市場ではベスト10以下になるサワラ、アサリ、シタヒラメなどが上位にきているのが特徴である。量販店でも「地場の魚」である県内水産物が仕入量の50%以上占めている店は70%にも及ぶ。

生鮮品については、23.4%がセリ取引だが、年々その割合は減少しつつある

社名の由来 2社ある卸売会社のうち、岡山中央魚市は、1954年に西勝商店と魚常商店が合併して誕生した。当時は、旭川の河川敷に県から用地を借りて地方卸売市場として営業していた。

 「このときに魚市場でなく、『場』を抜いた社名を全国でも初めてつけた。将来、岡山市中央市場が移転新設するときに、そこに入りたいという希望があったのではないか」

 現在の土屋社長が2代目として就任したのは1978年、その5年後には社名に託した念願がかなって現在の中央卸売市場開業時に入場している。それから15年経過した1998年の売上高は188億円強で前年対比99%。1987年に200億円を超えた売上げは1991年にピークになり、不況のあおりを受けて漸減してきている。だが、入場以来、ずつと黒字経営で通してきたという実績をもつ。このことからも堅実経営の一端がうかがえる。

 1998年には、関連会社であったウオレイ株式会社を合併し、新冷蔵部として発足させた。不況の中にあっても、常に前向きに取り組むようにしている。

現在は買付の割合が約78%だが、さらにデータに基づいた産地開拓、養殖活魚・水産加工品の拡売、冷蔵施設の充実、輸送体制の強化などを図って、1999年度は5%増の211億円をぬざしている。

農林水産大臣賞 土屋社長は、1998年度食品産業優良企業等表彰で農林水産大臣賞(個人)を受賞した。この部門での個人受賞はなかなか難しいと聞いている。全水卸の常任理事として業界の指導的立場、岡山市中央卸売市場における市場関係団体役員としての市場環境保全での貢献、魚食普及、精算会社方式による代金決済制度を確立し業界の信用力向上に努めてきたことなどが評価され、このたびの表彰につながつたのであろう。

 また、岡山市中央卸売市場運営協議会では会長を務め、その間に環境保健委員長として場内美化を目的に自主清掃の仕組みをつくったり、ゴミステーションを設置したりしている。

1991年より始めた発泡スチロールの回収再生処理を1998年度には新たな処理機械を導入するなど、先進的な取組みをしている。

ホームページ開設 そして、岡山中央魚市で注目すべきことは、どこよりも早くインターネットのホームページ開設に踏み切ったことである。1995年にインターネットのホームページを開設した。

 「当時、慶応大学の村井純教授が執筆した『インターネット』という本を読んだ。同じ時期に村井氏の講演を聞き、話をする機会を得て、関心をもった。外注すれば美しいページはできるだろうが、自分たちの手づくりでこまめに更新していこうと考え、すべて社内で作成した」 同社がコンピユータを導入して一連の事務処理の迅速化を図ったのは1983年である。今、事務所の役員と管理職以上の机にはすべてパソコンが配置してある。苦手意識があつてもワープロと表計算ソフトぐらいは不自由なく使えるように、ということを目標にしている。このため、インターネットにホームページを開設してからもパソコンやインターネットなどを活用した情報の提供については、一部の社員だけでなく、全社員の関心事になっている。土屋社長の机脇には液晶型ディスプレイの最新型パソコンが設置されている。

 ホームページのトップページを開くと、会社案内や会社の概要のほか、岡山市場の紹介や取扱順位表やグラフなどが書かれている。

 「何をどこに向けて情報を発信していくかをまず明確にすることにした』

 出荷者と買受人に向けては、当社でどのような魚を取り扱っているかなど取扱順位表、取扱商品の説明など、それぞれが興味をもってもらえるようにしている。市況表では各魚種についてその日の入荷量(産地、単位、単価を含む)、一般市況などが記されている。これは産地が岡山市場に出荷したいと考えたときに役立つ情報の発信をめざしているためである。対象としている側がインターネットを利用しているケースが少ないともいえるが、それでも「ホームページを見た」場合には必ず電話を通しても話題にのぼるという。

 また、消費者へ向けての情報は、お魚情報や料理教室などが相当する。お魚情報、お魚健康ワールド、O−157殺菌効果、サワラ・カンパチ・シマアジの説明、サワラの照焼き、バラすしなどの料理紹介、お魚関係図書と内容は豊富である。これらは業界新聞などに掲載されている内容を転載したりして、できる限りタイムリ−な情報をのせるようにしている。

 『ホームページを開設し、多くのぺージにリンクしてもらって目にふれる機会を広げることにより、多くの人々に魚のよさを知ってほしいと期待している。

いちはやくホームページを開設したことで社員の意識も高まった。今では役員全員が電子メールを使い、社内の重要事項については全員で把握するようにしている。また、営業部員40数名にはすべて携帯電話を配布した。産地からの電話も直接担当者あての携帯に入り、チャンスロスを作らずにすむ」

販売先別データ 「これまでは出荷者商品別のデータは出るが、販売先に各担当者がどれくらいのマージンで販売したかというデータはつかめなかつた。しかし、1998年春からは売場を設定すれば、仕入先別、商品別、担当者別、買受人別など検索いかんでいかようにも見られるシステムを導入した。これらを各部門の課長代理以上に設置したパソコン約20台で見ることができるようになっている。また、社内ホストコンピュータを整備し、産地に行ったときにもいつでも情報を引き出せるようにしたことで、買付商品の利益がとれないところだけ品目別に抜き出して担当者が分析するということも可能になっている」

 情報機器の活用、システム構築には可能な限り取り組んでいる。他市場、他卸売会社が手がけるのがごく一般的になった段階で、かなり先を歩んでいるというノウハウの蓄積をめざしているからである。

 この中でもインターネットのホームページはいわばボランティアの情報発信といってよい。直接的な利益は生まない。市場という閉ざされた世界の中で、必要性を感じていない卸売会社も多い。

 だが、同社ではどこよりも早くほかがやらないことを始めたということで、企業イメージとしてはかなり向上させている。

 情報を発信する相手と、情報の内容を明確にして、より豊富な情報提供になっているからである。こうした企業の姿勢は求人でも好影響を与えるに違いない。自慢の施設が社宅である。

「当社では人が財産と考え、福利施設を充実させている。91年に市場から徒歩10分のところに鉄筋五階建ての社宅を完成させた。独身者用16室、家族向け9室、ともに格安の家賃で、いまは空き室待ちの状況」 仕事環境、生活環境、住環境で社員が働きやすい環境、いわばハード面を整え、社員の資質としてのソフト面、人間形成を充実させていってほしいと願つているのである。

社員住宅

岡山市場の問題点 最後に、卸売市場の問題点についてみてみよう。岡山県にはまだナショナルチェーンのスーパーの進出はそう多くないが、規模の大小を問わず、市場が今後発展し続けるには量販店をいかにひきつけていくかが課題になっている。岡山市中央卸売市場将来像検討委員会が1998年3月にまとめた「岡山市中央卸売市場将来像検討委員会」によれば、仕入れ面で量販店(81社回答)が問題点としていることは、1品揃えが不十分(81%)、2品質(鮮度)がよくない(48.1%)、3価格が高い(46.9%)、4水揚げ量・出荷情報や新商品等に関する卸売業者や仲卸業者の情報提供が不十分(44.4%)、5先取りの影響で仕入れたい商品が入手できない場合がある(23.5%)、6価格の乱高下が激しい(22.2%)の順となっている。

 出荷者や市場利用者などにアンケートをして得られた総合的な結果としては、今後は量販店ニーズに対応していく取引の仕組み、衛生管理施設の充実、情報提供、新商品の提案力などが望まれている。

 「これらに対応していくためには、より広い駐車場の確保、市場外流通に対する問題、衛生面からも配慮された荷捌き場など配慮すべき問題は数多い。だが、『顧客とともに歩む』というモットーを活かして、『熱意、創意、工夫』をしていきたい」

 そして、最後に土屋社長から問題提起されたことがある。それは市場が早朝からセリをすることが必要かどうかという疑念である。現在の市場は夜中から動いているが、その日の出荷をめざすために、出荷者も無理をし、卸売会社も深夜、早朝からの勤務を余儀なくされる。

 「水産物は健康によい食品であるのに、それを取り扱う我々市場の業者が健康を害してまで深夜、早朝から働く必要はあるのか。もっとうまい仕組みはないのか。これから先もよい人材を確保していくためには、市場のシステム、勤務時間帯や休日などがこのままでよいのかどうか、を考える時期にきていると思う。そして、中央市場を使つてもらうメリットはどこにあるのかを真剣に考え、出荷者、消費者、どちらにとってもよい市場のシステムを構築していく必要がある。それには目先の利益だけを見るのでなく、長期的に市場の将来を考える必要があるだろう」

これから先の情報化社会で卸売市場がどう変わるか、どう対処していくべきか、その模索をしていると感じた。今後に注目したい。

(取材構成・川島佐登子)

岡山市場を取り巻く生活情報

岡山の人は大の魚好き。その中でも岡山を代表する魚をあげてみよう。

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ヒラニシン科の最大50pに達する海魚。ニシンよりも扁平な形をしているので、属に「ヒラ」と呼ばれている。岡山県ではヒラの入っていないすしは「すしにあらず」といわれるほど浸透し、ダントツの人気を誇る。他県産のものもほとんどは岡山の市場へ出荷され、毎年五月になると、ヒラが鮮魚店の店頭に並び始める。小骨さえなければ殿様の食事にもなるといわれたほど、岡山県の人たちにとつては美味な味覚。煮付けや酢のもの、塩焼き、バラずしの具など様々に用いられている。

ママカリ 岡山といえばママカリといわれるほどに全国的に知られるようになつた。おかずにすると食が進んで飯が足りなくなり、隣に借りにいくということから「ママカリ(飯借ごと呼ばれるようになった。素焼きにして三杯酢でよく食べられている。市内すし店ではままかりずしが人気がある。

ブリ 西日本を代表する出世魚。正月用に塩ブリは欠かせない。現在でも雑煮にブリをのせて食べるそうだ。

サワラ 岡山ずしには欠かせない商材。この岡山ずしの由来が興味深い。江戸時代、備前岡山の藩主池田光政は、質素倹約を奨励し、「食膳は一汁一菜とする」というお触れを出した。町人たちはそれならばすしの上にうまいものをたくさんのせようと、魚や野菜をすし飯に混ぜ込み、これに汁を添えて、「一汁一菜」としたそうな。この「一菜」が「岡山ずし」またの名を「祭ずし」として受け継がれている。ばらずしを重箱に詰めるときに、上に飾る具を底にも敷きつめ、重箱をひつくり返すと具が表面に出るというアイデアと気配りが、岡山大の県民性を表しているともいわれている。

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タイ 釜からあげた塩の中にタイを入れて蒸し焼きにする「鯛の浜焼き」。春先の贈答品としても人気がある。タイは日頃からよく食べる。

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クロシタ 束京方面にはアカシタが多く「舌ビラメ」の名称で販売されているが、岡山では瀬戸内のクロシタをよく食す。冬場は特に美味でムニエルや煮付けにする家庭が多い。小さい魚は干して食す。

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メバル 岡山では黒いメバルでなく、赤メバルが主流。

アゲマキ 細長い円柱形をしているマテガイの一種。瀬戸内海、九州の有明湾などのものが入荷し、酢みそあえや煮付けなどによく用いられる。

 このほか、カキ、工ビ、シャコなども岡山県人には人気がある。